昨年県内 厳罰化5年 抑止力薄れ
車を運転中にスマートフォンなどを使う「ながら運転」の県内の摘発件数が昨年増加に転じた。2019年12月に厳罰化されて以降、減少していたが、5年がたち抑止効果が薄れてきたとみられ、ながら運転による死亡事故や小学生が重体となる痛ましい事故も起きている。(青山大起)
「運転はうまいと思っており、少し脇見をしても大丈夫だと慢心していた」
自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死)で7月に地裁から禁錮3年、執行猶予5年の判決を受けた男(51)は、公判でこう述べた。
判決などによると、男は昨年12月、通勤のため、高島市の県道で携帯電話を左手で操作してゲームアプリ画面を見ながら運転し、道路左端を自転車で走行していた男性(当時59歳)に気づかず衝突し、死亡させた。男は自宅を出た直後から携帯電話を使用し、事故当時は県道を時速59キロで走行。「通勤で慣れた道で軽くみていた」と話した。
今年3月には、野洲市で男(28)が右手に持った携帯電話で通話しながらダンプカーを運転し、赤信号に気付かず交差点に進入。横断歩道を渡っていた当時小学2年の男児をはね、生涯介護が必要な重傷を負わせた。
ながら運転による事故は後を絶たず、19年12月施行の改正道路交通法で厳罰化された。スマホを注視するなどの「携帯電話使用等(保持)」は違反点数が3、反則金は普通車で6000円から1万8000円に。罰則は「6月以下の懲役または10万円以下の罰金」に引き上げられた。交通事故を起こすなど「交通の危険」を生じさせた場合は「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」とし、免許停止になる。
県警交通指導課によると、厳罰化を受け、県内のながら運転による事故件数は、19年の60件から減少し、23年は21件だったが、今年は6月末までに既に16件発生している。
取り締まりによる摘発件数をみると、19年は8056件だった携帯電話使用等違反は22年には3032件まで減少。しかし23年は3917件と増加に転じ、24年も7月末までに1927件と高い水準にある。同課は「ここ数年でスマホが広い世代に普及したことに加え、厳罰化から5年近くたち、ながら運転に対するドライバーの意識が低下しているのではないか」と分析する。
交通心理に詳しい日本自動車研究所の大谷亮主任研究員は「通勤経路や単調な直線道路など、ドライバーが安全だと思っている道路ほど、ながら運転を行いやすい。そうした場所も注意が必要だ」と指摘する。
警察庁によると、ドライバーが運転中にスマホなどの画面を見た場合、危険を感じ、運転に集中するまでに少なくとも2秒かかり、時速60キロで走行していた場合、33メートル進むことになる。また、ながら運転で事故を起こした場合の死亡事故率は、ほかの事故に比べ約4倍になるという。
県警交通企画課の芦田武信総括管理官は「わずかな時間の脇見でも重大な事故を招いてしまう。前を見て運転に集中してほしい」と呼びかけている。