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授業で英会話AIお助け 県立4高など試行

 県内の公立学校の英語の授業で、自然な文章を作り出す生成AI(人工知能)を導入する試みが本格化している。県教育委員会は今年度、県立高4校をモデル校に指定して授業を実施。守山市教委も独自に市立中で試行している。一人ひとりの英語力に応じて学習でき、英語を話す量も増えると期待される反面、考える機会が減少するリスクなども懸念され、活用方法の模索は続いている。(矢野彰)

 モデル校の一つ、県立彦根東高(彦根市)で11月中旬、1年生の英語の授業が行われた。生徒はタブレット端末に向かい、教科書を音読していた。端末にはAIが発音や会話の滑らかさを計測するアプリ「ELSA Speak(エルサスピーク)」が入っており、スコアやアドバイスが表示される。

 続いて、南部久貴教諭(31)が黒板に20世紀の出来事などの写真を掲出し、それが何か調べるよう英語で指導。生徒らが端末にある対話型生成AI「チャットGPT」に写真の特徴を英語で話すと、画面上に候補や説明の英文が複数例示された。生徒らは辞書も使いながら整理して英語で発表していた。

 ある女子生徒(15)は「AIは身近な存在。話す力の向上に役立っている」と笑顔を見せる。

 南部教諭は「AI相手だと間違えても恥ずかしくなく、自分のペースで話せる。英語への理解も発音も良くなった」と手応えを語る。一方で「AIの解説をどう取り入れて改善するかは教師が指導する必要があり、そこが難しい」とも話す。

 文部科学省が昨年度に行った公立高の英語教育に関する調査で、県内は「授業中50%以上、言語活動を行う」学校の割合が全国平均を15・5ポイント下回る41・1%で、話す機会が少ないことが明らかになった。そこで県教委は今年度、文科省の「小・中・高校を通じた英語教育強化事業」の一環で彦根東のほか米原(米原市)、国際情報(栗東市)、高島(高島市)をモデル校に指定。4校でAIを使った英文添削や英語での討論などを行っている。

 県教委高校教育課は「AIを使えば、一斉には難しい英文添削や英会話を授業中にたくさん行える。懸念される情報の誤りはある前提で、見抜く力も養えるようにしたい」とする。

 守山市教委も、文科省の事業に採択された教科書会社「東京書籍」(東京)と連携。市立守山南中をモデル校にして6月から、同社の教科書に準拠した対話型学習サービス「教科書AIワカル」を取り入れた。

 11月上旬には、3年生が英語で討論。生徒がパソコンに相手の意見と共に「反論して」「中学3年の英語で」と日本語で入力すると、教科書の単元に沿った英文や解説が画面上に並んだ。英語が苦手な生徒もAIの例文を参考に、意見や反論を活発に述べていた。

 男子生徒(15)は「分からない点を教えてくれて便利。ただ、頼り過ぎると考える力が養えないかもしれない」と話す。市教委は「安易に使うと単なる『翻訳機』になりかねず、指導者が使い方を考えさせる必要がある」として、本格導入するか検討を続ける。

 文科省は昨年、小中高校での利用について「リスクや懸念に対策を講じた上で検討すべき」などとするガイドライン(指針)を策定した。ただ、英語は話す機会が少ないことが長年の課題で、AIは練習量を増やし状況を一変する「ゲームチェンジャー」になると期待する。次期学習指導要領の改定に向けて同年、活用方法などを中央教育審議会に諮問。活用事業も拡大する方針だ。

 
金丸敏幸・京都大国際高等教育院准教授(英語教育)の話
「生成AIの導入で授業で英語を話す機会は飛躍的に増え、得意な生徒はますます理解を深めるが、苦手な生徒とのギャップをどう埋めるかが課題になる。生徒の理解に応じた手助けが重要で、教師の責任は一層重くなる」

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