近江八幡のブドウ農家 市内初の醸造所
滋賀酒の蔵人 「発酵文化 共に」
近江牛やふなずしなどに合うワインを造りたい――。滋賀県は果実産出額が全国最下位で、ブドウ生産地としての知名度も高くない中、近江八幡市野村町のブドウ農家三崎清隆さん(39)が、市内初のワイナリー「空色ワイナリー」を開設した。水田だった畑でも工夫を凝らして栽培できるようにしており、滋賀酒の蔵人たちも酒文化を盛り上げる仲間として門出を応援している。(林華代)
三崎さんは米や鶏卵などを手がける農家の長男で、家業を継ぐつもりでいた。三重県の農業高校を卒業後、2006年に滋賀県農業大学校に入学。そこで知った生食用ブドウに可能性を感じ、山梨県の農家で研修を受け、ワイナリーで生産や醸造を学んだ。11年から生食用のブドウ栽培を始め、19年からワイン用も手がけている。
ワイン用のブドウ栽培に適しているのは、北緯30~50度と南緯20~40度の地帯と言われ、「ワインベルト」と呼ばれる。日本も含まれているが、雨が多く湿度が高いため、山梨県や長野県のように、冷涼な地域で標高の高い場所が向いているとされる。
三崎さんは、土壌の水はけが良くなるように排水管を通し、実がなる位置を高くし、雨から守るため屋根をつけるなどして、ブドウを湿気から守り、病気にならないよう工夫。「ブドウの出来がワインの出来をほぼ決める。高温多湿のアジアでもワインが注目されている場所がある」と、地元産ブドウの可能性を信じている。
19年の栽培開始時には、クラウドファンディングで資金を獲得しようと、支援者と苗木を植える体験を企画。酒造りの精神や技術を学ぶため、東近江市の中澤酒造で醸造にも携わってきた。そのつながりから滋賀酒の蔵人らがブドウの苗を植える手伝いをしており、栗東市で「栗東ワイナリー」を手がける太田酒造(草津市)の西村直樹さん(40)は「一緒に発酵文化を盛り上げていければ」と話す。
三崎さんは約4・5ヘクタールの畑で、赤、白ワイン用のブドウ5種類、計約1万本を栽培。畑には、そこから見える山々の風景にちなんで「三上山
」や「比良山圃場」などと名前をつけている。
酒造免許取得を申請中のため、収穫したブドウは3年前から醸造委託先の長野県のワイナリーに持ち込み、ワインは23年から販売している。免許が取れれば、25年産のブドウは近江八幡市で醸造し、11月末から赤約2000本、白約8000本を順次販売したい考えだ。
ワイナリーの開設記念式典は4月29日にあり、県や市、農業関係者、酒造関係者ら約150人が祝いに駆け付けた。三崎さんは「海外で評価してもらえる世界基準のワインを造り、地元食材と、地元ワインを楽しむマリアージュを進めていきたい」と意気込んでいる。