県自閉症協会副会長の福永恒一郎さん(61)と妻のナナ子さん(60)が、自閉症の長男との日常をコミカルに描いた漫画を制作している。タイトルは「自閉をめぐる冒険」。主人公の「ユウ」にとっては毎日が冒険の連続で、恒一郎さんは「自閉症児の子育ての面白いところを見てほしい」と話している。(小手川湖子)
子育てトラブル 笑いに昇華

実話をベースに子育てや療育、就学、家族のイベントなど様々なエピソードを、時にはアニメや映画のオマージュを織り交ぜながら漫画にしている。ナナ子さんが話題を提供し、恒一郎さんが構成を考えて作画。中には4コマ漫画もあり、2010年に初めて本にまとめ、15年、21年に続編を発行した。東京ビッグサイト(東京都)で年2回開かれている国内最大級の同人誌即売会「コミックマーケット」や、インターネットなどで販売している。
長男は1995年生まれ。3歳の時に中度の知的障害を伴う自閉スペクトラム症と診断された。同じ月齢の子たちがどんどん成長していく中、長男だけが違った。障害を持つ子を受け入れる療育教室にも通ったが、ずっと走り回っていた。ナナ子さんは「このままどこかに行っちゃいたいなぁ」と考える日々を過ごしていた。
最初の作品は、長男が小学校6年生の時、卒業記念の旅行として恒一郎さんと2人で寝台列車に乗った経験を題材にした短編「2008年 寝台急行銀河の旅」。小学校を卒業し、子育てを振り返る余裕が出たことで、夫婦は「大変と捉えるか、面白いと捉えるかは心次第。楽しいと思える方がいい」と前向きに考えられるようになり、漫画を描くことを思いついた。短編に加えて、幼少期や子育ての話なども描き下ろしで盛り込み、第1巻(68ページ)を完成させた。

1冊だけのつもりだったが、長男との日々は話題に尽きることはなかった。「描かなきゃいけないネタ」が増え、「私たちのことを知ってもらいたい。記録として描き続けていこう」とペンを持ち続けることにした。
「ビワイチ」に挑戦したり、7年がかりで西国三十三所を巡ったりした短編がたまると、単行本にしてきた。旅の途中で長男を見失い、肝を冷やすこともしばしばあったが、恒一郎さんは「当時は真っ青だったけど、今から見たら楽しい。漫画を読むとあの瞬間を何度も思い返せる」と語る。
長男は現在30歳。障害者雇用に熱心な工場で働いており、2年前からは自宅の近くで一人暮らしを始めた。昨年10月には、勤続10年の節目に三日月知事から表彰状を受け取った。
たまに長男の勤務先から電話が来ると、ナナ子さんは「また何かしちゃった?」と身構えるという。ただ、「どこかへ行きたい」と考えていた時とは違う。今では、何かトラブルがあっても「漫画のネタになる」と笑いに昇華できるようになった。
現在は4巻目の発行に向け、長男の一人暮らしについての話などを描きためている。ナナ子さんは「自閉症の子どもを育てる人だけでなく多くの人に、子育ても何とかなると思ってもらえるきっかけになれば」と願っている。