同志社大名誉教授・末永さん出版
「三方よしの精神 後世に」
近江商人のなりたちや歴史を研究する同志社大名誉教授で近江商人郷土館長の末永
さん(81)が、研究の集大成となる著書「近江商人の経営と理念 三方よし精神の系譜」(清文堂出版)を出版した。末永さんは「現代のSDGs(持続可能な開発目標)の理念に通じる近江商人の生き方を後世に伝えていきたい」と話している。(角川哲朗)
末永さんは大学で教べんをとりながら、県内外で古文書を集め、史料を読み解くことで近江商人の実態に迫ってきた。史料が眠っていそうな蔵がある家の家主らに手紙を書くなどして探し回り、研究に費やした年数は50年以上に及ぶ。中には15年かけて所有者にアプローチして手に入れたこともあるという。
今回は、2000年以降の自身の研究成果を中心にまとめたもので、江戸から昭和時代にかけての近江商人の記録をひもときながら、実態に迫った。
同書では、売掛金の回収や貸金訴訟で江戸幕府に巧みに掛け合って有利に交渉した様子や、家人の指示にすぐに対応できるよう日頃から入念な準備をしていた昭和初期の下級商店員の日課や心構えなどを紹介。
近江商人の精神を表す「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」の文言が、1830年の書物にすでに記載されていたことなども突き止め、現代企業の社会的責任(CSR)といった経営理念に通じる「三方よし」の考えが、なぜ近江から誕生したのか――といった疑問にも答えている。
末永さんによると、近江商人たちは、江戸時代にすでに、近江を「本店」とし、各地に「支店」を置いて特産品などを届ける現代の経営システムにつながる仕組みを構築していた。末永さんは、それが出店先の各地でそれぞれ商売が発展していく「持続可能な経営」の原型になったと推測する。
研究を進める中で、近江商人の「自分だけが大きな利益を得ようと思わず、取引先の人々を大切に思え」という利他的な考えが印象に残ったという。
出版に合わせ、4月4日に県庁を訪れた末永さんは、三日月知事と福永忠克教育長と面談し、「三方よしの精神は経営遺産ともいえるもので、近江商人の生き方は現代の人に通じる理念がある」と説明。三日月知事は「県も三方よしの理念を体現して政策を進めていきたい。これからもご助言を」と応じていた。
A5判、958ページ、税込み2万4200円。問い合わせは同出版(06・6211・6265)。