県ゆかり作家・笹田さん 紹介
県内にゆかりのある医師で作家の笹田昌宏さん(53)が「鉄道『幻』巡礼」(イカロス出版)を発刊した。未完成のままになった路線など国内33の鉄道に関する遺構などを「鉄道の幻」として掲載。県内からは3か所を取り上げており、笹田さんは「滋賀は交通の要衝で、国内でも希少な鉄道遺構が残っている。その存在を多くの人に知ってもらいたい」と話している。(斎藤孔成)
米原、多賀の3か所
笹田さんは大阪市出身。大津市内の小学校に通っていたことがあるほか、医師になってからは甲賀市内で皮膚科クリニックの院長を務め、現在は東京都内で医師をしつつ、作家活動に力を入れている。
子どもの頃から鉄道ファンで、現在は鉄道に関わる調査や取材を続けている。各地に残る鉄道車両を地域の活性化につなげる活動にも取り組んでいて、群馬県中之条町に屋根のない車両「無蓋車」を寄贈するとともに、町内にある旧太子駅を「日本一の無蓋車公園」にする構想を提案したのが縁で同町の観光大使も務める。
著書は23冊目。新著では北海道や青森県、京都府、福岡県などにある、完成しなかったり、使われなかったりした各地の路線「未成線」などをカラー写真を添えながら歴史や経緯、現地の様子を伝えている。
滋賀県で選んだのは▽「住友大阪セメント伊吹工場専用線」(米原市)▽「蒸気機関車避難
」(同)▽「多賀SLパーク跡」(多賀町)――の3か所。避難壕の項では、太平洋戦争中に蒸気機関車を隠すために2本の避難壕が掘削され、うち1本は終戦のため貫通せずに放置されたことなどを紹介。地域住民らが戦争の歴史を伝えるために保存活動などに取り組んでいることにも触れている。
「幻の路線は、時刻表に載ることも、地域の歴史に刻まれることもないけれど、完成させようとした関係者の熱意や、開業を待ち望んだ人々の夢が詰まっている」と笹田さん。「埋もれた歴史を改めて発掘することで、地域を見直すきっかけになれば」と話している。
A5判、176ページ。税込み2200円。