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103歳 復員後の歩み描く

103歳 復員後の歩み描く

草津・山本さん 2作目私小説 草稿完成

書き上げた草稿(左)を手に執筆を振り返る山本さん(草津市で)
書き上げた草稿(左)を手に執筆を振り返る山本さん(草津市で)

 第2次世界大戦中に学徒出陣し、ビルマ(現ミャンマー)などで従軍した草津市在住の山本栄策さん(103)が、2作目の私小説「百三歳の旅人」の草稿を書き上げた。描いたのは復員後の歩み。多数の死を目の当たりにした戦地で培った人生観や死生観が、「困った人を助ける」という人生訓に結実したという。30年越しでまとめた手記をベースに、入院中もパソコンに向かい、約2年かけた労作だ。(藤井浩)

「困った人を助ける」 人生観 戦争で変化

 山本さんは東京農業大に在学中の1942年、旧陸軍に召集された。中国・雲南省では敵機の爆撃と銃撃を受け、血まみれの仲間が目の前で息絶えた。ビルマでは、地面に掘った穴から手投げ弾で敵の戦車に応戦。踏みつぶされた戦友の悲鳴が今も忘れられない。

 自らも機銃掃射で右足を負傷、体内に弾の破片5個を残し、終戦後の46年に復員した。県職員となり農地開拓などに従事し、定年退職。再就職した傍ら、自分史を書き始めた。

 手帳や日記から記憶を呼び起こし、史料を集めるのには時間を要したが、「戦争の記憶を風化させまい」と、根気強く書き続けた。

 80歳を超えてから、地域の小学校などで戦争体験の語り部も始め、私小説のベースになる手記「明日に生きて」(前、中、後編)を書き上げたのは90歳間近。元々文章を書くのは好きで、少年期から出征、復員までをまとめた手記を、よりドラマチックな展開に仕立て直したのが私小説の前編「百二歳の旅人」。2022年に自費出版した。

 今回の私小説後編のテーマは「人生訓」だという。

 山本さんは手記の後編で「被弾で目も当てられぬ死に方、病で野垂れ死ぬ哀れな姿に接し、運命観も死生観も変わった」などと振り返っており、戦場での体験が山本さんの生き方を方向付けた。

 復員して25歳で結婚した妻と共に「相手を思って人を助け、幸せにする」との考えを心のよりどころとした。私小説では、高校を途中退学したり覚醒剤におぼれたりした子を持つ家族の相談に乗り、誠意を尽くして寄り添ったエピソードなどを紹介している。

 数年前から
膀胱ぼうこう
がんで入退院を繰り返し、耳も遠くなったが、何でも食べ、持ち前の好奇心で習得したパソコンを病室に持ち込み執筆を続けた。「人に喜んでもらうことが生きがい」といい、今年も小学校などで戦争体験を話す。家族も「スーパーおじいちゃんですね」と舌を巻く。

 希望者には前編の「百二歳の旅人」を税込み5000円で販売する。「百三歳の旅人」の出版時期は未定。

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[紹介元] YOMIURI ONLINE 103歳 復員後の歩み描く

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