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104歳 生活照らす17音

104歳 生活照らす17音

本紙文芸常連 大津・小山さん

 幸せが十年続くデイ通い――。本紙滋賀版の「滋賀よみうり文芸」(毎週土曜掲載)に作品を寄せる大津市の小山義美さん(104)は、週4日通うデイサービスでの介護スタッフの交流などを川柳や俳句にしたためている。老人ホームに入所しており、「寂しい時もあるけれど、句を作ることで心も生活も明るくなる」と、日々ペンを執り続けている。(林華代)

最高齢「滋賀ギネス」目標 創作続けたい

介護スタッフとの交流などをテーマに創作を続ける小山さん(大津市で)
介護スタッフとの交流などをテーマに創作を続ける小山さん(大津市で)

 俳句や川柳を始めたのは100歳。入所する住宅型有料老人ホーム「
むく

いえ
」(大津市)で、将棋仲間だった元教員の男性に誘われたのがきっかけ。今では、創作仲間とともに作品が廊下に展示されている。

 冒頭の川柳は今年4月に特選に輝いた作品。選者は「ご家族やスタッフさんの温かさも伝わってくる。思い通りいかない事も多い中、喜びを見つける才能。生きる力に最も必要な栄養素かもしれない」と舌を巻く。

 俳句でも、テレビの天気コーナーで気象予報士が紹介する季語や花をヒントにするなど、巧みな才を発揮する。

 生ビール

の一杯に明日が有る(2024年9月21日掲載。俳句特選)

 選者は「一杯のビールに明日が有るとは、いつも前向きに人生を歩んでおられる事に拍手を送りたい」と絶賛する。実は日本酒が好きで、当初は「缶ビール」にしていたが、1か月考え続け、「夏といえば生ビール。若い頃、ビアホールで飲んだ味を思い出した。たった一文字だけれどね」と季節感をちりばめ、夏らしい句に仕立て直した。

 平凡を是として百寿夏を越す(20年11月8日掲載。俳句特選)

 コロナ禍で日常が奪われた夏だったが、「どこにも行けず、身動きできなかったけれど、ニュースを見て逆に創作に集中していた」と振り返る。選者は「例年以上の暑さ、風水害、コロナ禍という大変な夏。それらを乗り越え100歳を迎えられた記念の作品です。力みなく平凡を是とした生き方と、人生はかくあるべしという気持ちが伝わる」と講評する。

 デイサービスでも句会があり、仲間との交流を深め、多忙な介護スタッフには「1人に3分声をかけて」とお願いする。なぜなら、「おしゃべりがうれしくなり、笑いも起きるから」。トイレに行く時は「新幹線!」と声をかけ、急用だとユーモアを交えて伝える。その裏には「みんなに世話になっているので、迷惑をかけず、感謝を忘れない」との人生訓がある。

 戦後80年の夏になる。戦時中は京都市の工場で、戦闘機の部品を作っていた。「お国のためと言いながら必死にいい物を作り、不良品を直して、特攻隊員は敵艦隊に体当たりさせてかわいそうなことをした」と唇をかむ。「何のために一生懸命作ったのか。あかんと分かっていたら、いいかげんなことをしとけばよかった」と後悔の念も明かす。

 25歳で終戦を迎え、100歳まで生きることを目標に据えた。幼なじみ3人は戦死した。「当時の人生感覚は50年。3人が生きていたらあと25年はあった。3人の分まで頑張ろう」。友人への思いを胸に、人生を歩んできた。

 今月末には105歳になる。正月に最後の作品を創り、7月の投稿欄を最後にペンを置くつもりでいたが、その意欲は衰えず、「創り続けたくなった」。現在の県内男性最高齢は108歳。新たな目標に〈滋賀ギネス〉を掲げ、これからも健筆を振るうつもりだ。

        ◇

 俳句がメンタル面にもたらす効用に詳しい鳴門教育大の皆川直凡特命教授(教育心理学)の話「『座の文芸』と言われる俳句は、作品を発表、鑑賞し合うことで交流が生まれる。『感じる、思い浮かべる、考える、まとめる、書く』という認知活動の機会が凝縮されており、創作力が磨かれて心が元気になるのでは」

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[紹介元] YOMIURI ONLINE 104歳 生活照らす17音