彦根市の元県職員 松林 利和さん74
「最後は地元の人に見てほしい」。彦根市開出今町の松林利和さん(74)は、過去に二科展や県展などの美術展で何度も入賞し、各地で展覧会も開催してきたが、約20年前、プレッシャーから絵を描くことをやめ、表舞台から去った。70歳を超え、大病を患ったことを機に再び絵と向き合い、「区切りをつけたい」と31日から、生まれ育った彦根で最初で最後の個展を開く。
元県職員。1973年に22歳で入庁し、まもなく庁内の絵画サークルに入った。指導する二科会会員の男性に「うまいなぁ」と褒められたことをきっかけに絵の魅力にとりつかれ、仕事終わりや休日は自宅の車庫で絵描きに没頭した。
作品は主に油絵で、「風のかたち」というテーマが多い。風とともに流れる「時」、風で動く風景をイメージして表現してきた。「幼少期に遊んだ犬上川の土手で見た風景が脳裏に今も残っている」。大半の作品の根底には、ふるさとの風景がある。
85年、彦根の田園風景を描いた「収穫のあと」を二科展に初出品し入選。自宅に専用のアトリエを設け、本格的に活動し、関西二科展で特賞を取るなど、複数の美術展で入賞を続けた。
だが、多くの展覧会に出品し続けたことで、毎回「入賞しなければ」とのプレッシャーを感じるようになった。2004年、それまで18回連続で入選していた二科展で落選。「どこかほっとした自分がいた」と悔しさより
感が勝った。何よりも好きだった絵を描くことが嫌になり、やめた。
それから約20年、絵画仲間から何度も展覧会への出品を勧められたが固辞してきた。友人の展覧会に行くと、うらやましく思うこともあったが、「もう一度描こう」という気持ちにはならなかった。
心に変化があったのは5年前。がんを患い、2週間ほど入院した。病院のベッドの上で人生を振り返ると、絵を描いていたあの頃が何度も走馬灯のように脳裏に浮かんだ。
退院して、倉庫に片付けていた200点ほどの作品を取り出して眺めることが増え、自分の絵と向き合った。そんな折、頼まれて、過去の作品を地元の文化祭に出品する機会があり、「これまで東京や京都の展覧会に出品するばかりで、彦根では展覧会を開いていなかった」と思い返した。
70代半ばとなり、「終活」を始めた。ベニヤ板3枚を連ねた大作や100~120号の作品の数々の処分を考えるようになり、「最後の花道」と個展開催を決めた。「絵は道半ばで挫折したけど、いつも心のどこかに彦根の景色があった。その彦根で絵画人生のゴールを迎えたい」
個展は31日~11月3日、彦根市野瀬町、ひこね市文化プラザ2階のギャラリーで開かれる。二科展や県展で入選した作品を中心に24点を展示する。
(清家俊生)
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