<上>公共交通
参院選滋賀選挙区(改選定数1)では、過去最多となる新人7人が論戦を繰り広げている。20日の投開票を前に、県内の課題を取り上げる。
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6月中旬、三重県境にほど近い甲賀市土山町のゲートボール場に高齢の女性3人が車で訪れた。バスやタクシーではなく、利用したのは甲賀市が4月から始めた「公共ライドシェア」だ。
バスの運転手不足が深刻で、市は4月から土山町でコミュニティーバスの路線を廃止し、大幅な減便も行った。代わりに地域の足として始めた試みで、自治体やNPOなどが自家用車を使い、有償で客を運べる。
土山町には鉄道の駅もタクシーの営業所もなく、移動手段を持たないお年寄りにとってバスは生命線だ。自宅近くを走っていた循環するバスが廃止となった女性(90)は「最寄りの停留所まで歩けば15分はかかるし大変」と漏らす。別の女性(91)も「減便で病院やスーパーに出かけにくくなった」と話し、「代わりの車があってありがたい」と感謝する。
市は、コミュニティーバスを市全域で運行していたが、運転手の時間外労働の規制強化による人材不足が顕在化。土山地域では2024年度まで8路線あったが、国道1号を走る路線以外は利用が低調なため、今年4月からは4路線を廃止した。ライドシェアでも運転手の確保は課題で、何より、公共交通のバスが減ることへの市民の不安は根強い。
また、財政負担も大きい。市はコミュニティーバスや乗り合いタクシーの運行経費として年4億円を事業者に補助しているが、人口減が続く中で、利用者増はなかなか見込めない。旧5町が合併した甲賀市は、県の面積の約12%を占め、東西に広く、土山町以外にも公共交通機関が利用しにくい「交通空白」の地域がある。
市公共交通推進課の中村正太課長は「利用の少ない路線は今後も見直しが必要になる。10年後、20年後にどこまでサービスを保てるかは分からない」と話す。
県のまとめでは、24年度は県内にある路線バスの運行会社8社で運転手が53人不足。うち5社が計45路線で減便を実施し、3路線を廃止した。近年は運賃の値上げも相次いでいる上、始発の時間が遅くなったり、最終便が繰り上がったりと利便性も低下している。
バスだけではない。近江鉄道(彦根市)の鉄道事業は利用者の減少で1994年度以降赤字が続き、昨年4月から沿線10市町と県でつくる「近江鉄道線管理機構」が鉄道設備を管理する「上下分離方式」での運行が始まった。10年間で県と市町が負担する保守管理や設備投資の費用は116億円に及ぶ。
こうした現状に向き合うため、県は「交通税」の導入を検討する。公共交通をどう支えるか。滋賀だけの話ではない。国を挙げて議論する時が来ている。