<中>コメ急騰
2023年産米が猛暑で不作となり、需給のバランスが崩れて起きた「令和のコメ騒動」。県内でも小売価格の高止まりが続く。一方で、コメの需要減で長年にわたって米価は上がっておらず、物価高で生産コストは上昇。コメ作りを続けられるのか、農家は不安を募らせている。
「米価がこれほど安く、作り手もいない。いつかこういう事態が起きると思っていた」。東近江市の北川義貴さん(32)は、JA職員から専業農家となって4年目。所有者から委託を受けた同市宮荘町などの水田約10ヘクタールでコメを生産する。
コメの需要は減り、18年に減反政策が廃止された後も、実質減反に当たる生産調整が行われてきた。そんな中、肥料や資機材は高騰しており、「肥料代が1・5倍になっても米価は上がらなかった。農業をやめる人も増えた」と北川さん。所属する農事組合法人代表の諏訪一男さん(83)も「消費者がコメを安く買えるのは大事だが、農家への対価が安すぎて採算は取れていない」と指摘する。
厳しい状況にはあるが、北川さんは「あって当たり前のコメが急になくなった今が、農家に目を向けてもらう転換点になるのでは」と期待感もにじませる。
滋賀は近畿有数のコメどころ。県産米は京阪神地区から引き合いが強いが、24年産は卸業者による争奪戦で価格が上がったことなどで集荷業者にコメが集まらず、ニーズに応えきれなかった。
県やJAなどでつくる県農業再生協議会は、25年産米の生産目標を前年より1900トン増やして14万8000トンとした。飼料用米などの田んぼを主食用に切り替えるよう呼びかけ、主食用の作付面積は前年から400ヘクタール増の2万7800ヘクタールとなる見込みだ。ただ、農家はコメに代わって麦や大豆の生産を増やしてきた経緯があり、急な増産は難しい。
25年産米を確保するため、JAグリーン近江(東近江市)は5月、生産者に主食用米の手取り価格の水準を初めて示した。通常、農家がJAに販売を委託する場合、JAが代金の一部を仮払いした後、出荷から約1年半後に農家に支払われる最終的な金額が確定する。その金額に相当する手取り水準を早めに明らかにすることで、農家にJAへ多く出荷してもらうのが狙いで、価格も例年の金額より少なくとも3~4割高めに設定した。
令和のコメ騒動で、昨年6月に5キロで2000円台だったスーパーなどでのコメの平均価格は、今年5月中旬には4285円に達した。随意契約の政府備蓄米の放出もあり、現在は3600円台に下がってはいるものの、気候変動の影響で今後もコメの収穫は不安定になりかねない。
消費者や農家にとって適正なコメの価格や生産を持続できるのか。農業のあり方が問われている。