原因・再発防止策 公表なく
大津市消防局の訓練中に男性消防士が転落死した事故は、1日で発生から1年を迎える。市消防局は8月1日を「大津市消防局 安全誓いの日」と定め、事故現場で追悼式を行う。しかし、参加できるのは消防局職員のみで、遺族は「この事故を教訓にできるよう、大津市は事故について市民にも知らせ、再発防止の土壌を作ってほしい」と訴えている。(林華代、香山優真)


亡くなったのは、青木裕樹さん(当時31歳)。昨年8月1日午後、同市御陵町にあった旧中消防署で、宙づりになった人を救助する想定の訓練中に約4・7メートルの高さから落下。頭を強く打ち、死亡した。
市消防局によると、訓練には青木さんを含めて3人の消防職員が参加。地上には安全マットが敷かれ、青木さんは命綱を着けていたという。
遺族によると、青木さんは「(救助隊員が着用する)オレンジを着たい」と大学時代から話しており、卒業後、半年で消防職の採用試験に合格。消防士になってからは、終業後もジムやプールに通って体力づくりを行うなど、熱心に取り組んでいた。昨年1月に起きた能登半島地震の被災地でも活動した。
綾羽高の野球部出身で、事故の5日前にあった全国高校野球選手権滋賀大会の決勝では勝ち進んだ母校を親子で応援し、市消防局でも野球部に所属していた。遺族宅には今も野球グラブや消防服などが大切に残されている。
母親は一日の最初に、青木さんが訓練で身に着けていた手袋を手に取るようにしている。「病院でもずっとあの子の手を握っていた。手袋を通してあの子と握手しているんです」と語り、「息子の死を風化させたくない」と願う。
市消防局は、外部有識者による検証委員会を終え、現在は内部に設けた検証委で調査を続けている。事故後は訓練をいったん中止したが、再発防止策を取った上で訓練を再開。4月からは安全管理に関するマニュアルを導入している。8月1日は旧中消防署で消防局幹部が参加して追悼式を行うほか、全消防署で職員が参加して安全研修を実施することにしている。
しかし、事故原因や再発防止策については発表していない。2023年10月に水難救助訓練中に男性消防士が死亡する事故があった新潟県柏崎市では、半年後には第三者委員会が報告書を再発防止のために公表。同市消防本部が市ホームページにも掲載する対応を取っているが、大津市消防局は、事故から1年になるが「適切なタイミングで公表したい」とコメントするにとどまっている。
遺族は「市民がこの事故を知り、関心を寄せることで消防組織の体質改善、再発防止につながる。市が事故をきちっと周知してほしい」と要望している。