30年超違法状態・・・ 市が撤退へ
大津市が地権者らとともに開設し、運営してきた市民農園が、30年以上にわたって違法状態だったことがわかった。市はこれを機に運営から撤退する方針を打ち出しており、利用者や地権者の間からは戸惑いの声が広がっている。(生田ちひろ)
「公平性問題」 利用者戸惑い
市民農園は、農地法の特例を定めた特定農地貸付法などで規定されており、自治体や農業者、企業などが開設する。農林水産省の2024年3月末調査では全国に4257園あり、うち自治体開設は2016園(47・4%)を占める。
大津市では、市や地権者らでつくる市民農園の運営委員会を1975年に開設。「ファミリー農園」の名称で毎年、利用者を公募して農地を貸していた。89年に同貸付法が施行されてからは、農地の貸し付けには地権者と委託契約を結んだ市などが市農業委員会の承認を得る手続きが必要となったが、市が怠っていた。このため、農地全般の貸借を定める農地法に違反した状態が続いていた。
市民農園は現在3園(計5589平方メートル)あり、2022年、新たに市農業委の配属となった職員が違法状態に気づいた。市は、同貸付法に基づいて農業委に届け出をする必要が生じたのを機に、維持管理などに年間約300万円の公費を投じていることから市民農園のあり方について検討を始めた。
24年5月に利用者調査を実施したところ、6年以上の継続利用が4割を占めた。市は「利用は市民の一部に偏っている。市が直営で運営する場合、公平性が問題になる可能性がある」と判断。近年は有機農業を掲げたり、駐車場を備えたりした民間事業者が開設した市民農園も増えており、撤退する方針を固め、25年度以降の公募を停止した。
市は今後、利用料(1区画15平方メートル、年間8000円)を値上げした上で、民間事業者の参入や、地権者がシルバー人材センターなどに公募や徴収事務を委託する形態を想定している。
市が9月に開いた利用者説明会には約50世帯が参加。撤退方針を伝えたのは初めてで、60歳代の男性は「自分で作った野菜は安心でき、物価高で助かってもいる。市が一方的に撤退を宣言して、驚きと憤りを感じた」と話す。地権者の一人は「農地は使わないと荒れ地になるが、自分たちで運営するのは厳しい」と不安を口にした。
市農林水産課は取材に「違法状態だったことは申し訳ない」とした上で、「運営からは撤退するが、市民農園は維持したい。運営形態は地権者の意向次第で、相談には応じたい」としている。
農水省都市農業室は、市のケースについて「手続き上のミスで悪質ではない。ただ、利用者が戸惑わないよう、きちんと引き継いでほしい」としている。
市民農園に詳しい兵庫県立大の三宅康成教授(農村計画学)の話「地権者の意向で閉鎖する事例はあるが、違法というのは珍しい。多くの自治体が市民サービスの一環で続けており、民間参入も含め、市民が納得する形であり方を見直すべきだろう」


