
彦根には、原田眞人監督(昨年12月、76歳で死去)が残した「遺産」が数多く残る。その一つが市北部の山あいにある民間撮影所「彦根オープンセット」だ。
撮影所は元々、原田監督がメガホンを取り、新撰組が尊皇 攘夷 派を襲撃した事件を描いた「燃えよ剣」(2021年公開)で、舞台となった旅館「池田屋」のシーンを撮影するために作られたセットだった。
「京都太秦などに池田屋に似せたセットはあるが、監督はそれでは気に入らなかった」。数々の原田作品でタッグを組んだ映画プロデューサーの鍋島寿夫さん(72)は当時を振り返る。
監督は、池田屋に関する資料を基に「忠実に描きたい」とセットを丸々つくった。精巧につくられた建物は、彦根に愛着を持った監督らの「彦根が数多くのロケ地になれば」との思いを踏まえ、撮影終了後も取り壊されることなく、地元企業の出資を得て、2019年に彦根オープンセットとして引き継がれた。
オープンセットは彦根、米原両駅から車で10分の立地だが、人里からは離れている。そのため、深夜の撮影や火薬の使用ができる本格的な撮影所として引きが多く、人気ネットドラマ「イクサガミ」(25年)やハリウッド映画などに使われている。
監督自身も遺作となった「BAD LANDS バッド・ランズ」(23年公開)で使った。作中、燃えよ剣でも沖田総司役で出演した山田涼介さんが建物に入った際、「懐かしい感じがする」とつぶやくシーンは、ファンの中で「粋なセリフ」として語り継がれている。
監督が彦根にセットを残したいと思った理由の一つが、市民の盛り上がりだった。
11年に結成された市民有志でつくる「彦根を映画で盛り上げる会」は、ボランティアでロケスタッフをサポートする。弁当の手配のほか、施設所有者への使用依頼、出演者の送迎など活動は多岐にわたる。オープンセットでの撮影では、盛り上げる会のメンバーが撮影所の脇で炊き出しをする光景が定番となっている。
副会長の和田一繁さん(58)は「何度も来ている役者さんたちには、好みやベジタリアンなどの特徴もちゃんと考慮してメニューを手配します」とにこり。監督はカレーがお気に入りだったといい、ホテルまで送迎した車内で「今日のカレーはおいしかったよ。いつもありがとう」と感謝されたという。
鍋島さんは「市民に支えられて撮影できるなんて、喜びしかない。彦根が映画のまちとして認知され、オープンセットがその拠点になれば」と期待を込める。
出典:読売新聞オンライン

